2012年9月10日月曜日

金メダルへの想い。なでしこジャパン


思い返せば、去年の女子サッカー、ワールドカップ。なでしこジャパンは、まさかまさかの勝ちを重ねながら、決勝では世界最強のアメリカまでをも打ち負かしてしまった。

「なでしこジャパン、世界一!!!」

この一報に、どれほど日本列島が沸いたことか。この勝利には世界も惜しみない賛辞を送った。FIFA(国際サッカー協会)は、「日本は世界の国が目指すぺきサッカーのスタンダードをつくった」と、”なでしこジャパン”の華麗なる「パス・サッカー」を激賞した。



あれから一年、今回のロンドン・オリンピックでは、「追われる立場」となった”なでしこジャパン”。王者としての宿命からか、世界各国の強豪チームから徹底的に研究され、その戦いは予想以上に厳しいものとなっていった…。

「各国からマークされ、大きなプレッシャーを背負う。それがワールドカップで優勝した日本の宿命なのです(アメリカ・ワンバック選手)」





◎攻撃的なパス・サッカー


注目の予選第一戦。対するは世界ランキング7位の「カナダ」。

前半33分、大野選手のヒールパスを受けた川澄選手が先制ゴール。(実況)「すばらしいコンビネーション!! なでしこらしい素晴らしいコンビネーションでしたーーーっ」

そして前半終了間際、鮫島選手がゴール前にポーンと上げたボールを、宮間選手が頭で合わせて2点目。(実況)「鮫島のクロスから、日本2点目ーーーっ!」(解説)「そこに至るまでのボール回しが、本当に素晴らしい」

日本の攻撃的なパス・サッカーが、次々と決まり、激闘となったカナダ戦を、なでしこジャパンは2対1で制した。



◎王者としての宿命


続く予選第2戦、相手は世界ランキング4位の強豪「スウェーデン」。

結果は0対0という引き分けであったが、どうも”なでしこ”たちの動きが悪かった。彼女たちの持ち味であるパス・サッカーは生彩を欠き、本来の動きが見られなかった。

相手に徹底的にマークされた司令塔のキャプテン・宮間選手は、繰り返し繰り返しパスをつぶされる。前キャプテンの澤選手は疲れが目立ち、後半13分にベンチに下げられた。

日本を徹底的に研究していたスウェーデンは、日本の良さを完全に封じ込めてしまったのであった。これが王者としての宿命なのか…。



◎厳しい試合日程


その夜、キャプテン宮間選手と前キャプテン澤選手は、佐々木監督の部屋を訪れた。「どうして勝てなかったか? 自分たちには何が足りなかったのか?」を話し合いたいと2人は監督に申し出たのである。

そして、3人で話し合った結論は、「選手の『体力温存』がカギになる」というものであった。小柄な”なでしこ”たちは大柄な外国人選手以上に、数多く動き回らなければならない。初戦のカナダ戦での激闘で予想以上に疲労してしまった選手たちは、次のスウェーデン戦で本領を発揮できないでいたのだ。

オリンピックでの試合と試合の間は、たった2日間しかないため、ワールドカップの時以上に、厳しいスケジュールを強いられる。その中で、「選手たちの体力をいかにベストな状態に保つか」、それが金メダルへのカギだと佐々木監督、キャプテン宮間、前キャプテン澤は確かめ合ったのであった。



◎新キャプテン


ワールドカップの時、なでしこジャパンのキャプテンは澤選手であった。その活躍は凄まじく、FIFA最優秀選手賞、そして得点王の栄冠に輝いた。

今回、オリンピックの金メダルを取るにあたって、佐々木監督は新キャプテンとして宮間選手を起用した。その決断には、各国のマークが厳しくなりすぎた澤選手のプレッシャーを軽減することと、次につながる宮間選手に期待する想いが込められていた。





澤選手と比べると、6つ年下の宮間選手。宮間選手が小学6年生の頃、澤選手は高校生であった。そんな2人は、その頃からプレーを共にすることもあり、澤選手は宮間選手の憧れの選手であった。

「将来の夢は、世界にはばたくサッカー選手です。そして、みんなに感動を与えたいです」。そう語っていた小学6年生の宮間選手。

その彼女が今まさに日本チームの司令塔となって、先輩の澤選手とともに金メダルの感動に向かっているのであった。



◎苦渋の南アフリカ戦


予選第3戦、南アフリカ。世界ランキングは第61位とだいぶ格下。決勝トーナメントの出場はすでに確定していたので、佐々木監督はこの試合、選手の体力を温存するため、大胆な選手の入れ替えをして臨んでいた。

双方、決め手のないままの膠着状態で迎えた後半12分。佐々木監督はさらに大胆な決断を下した。その監督の決断を選手たちに伝える川澄選手。

「えっ!?」と選手間に広がる困惑。監督の指示はそれほど前例のないものであった。なんと「シュートを打たないで欲しい」というのである。とまどいながらも指示に従った選手たちは、結局、引き分けでこの試合を終える。



◎非難のドロー


「ドロー(引き分け)狙い」。監督の狙い通りの結果だったわけだが、それにしても、なぜ、勝ちにこだわらなかったのか。選手の士気を下げてしまうのではないか。国内外から批判の声は上がり、なでしこたちは槍玉にされた。「フェア・プレー精神はどこへ?」

その批判を一身に受けた佐々木監督。必死に選手たちを守った。ドロー狙いという決断は、目の前の一勝を犠牲にしてでも、あくまでも金メダルを取りにいく大きな戦略の一環だったのである。



もし、南アフリカに勝って予選リーグを第1位で通過すれば、気分が良くて選手や応援団の士気は上がるかもしれない。でも、それには犠牲があった。次の試合会場が、飛行機で8時間という長距離移動になり、また次の試合も8時間かけて戻って来なければならなかったのだ。なか2日間しかない厳しい試合日程の中、これでは無為に選手たちの体力を消耗させてしまう。

それに対して、南アフリカと引き分けて、予選リーグを第2位で通過すれば、次の試合は同じ会場、そのまた次の試合もすぐ近くであった。つまり、こちらの選択の方が、圧倒的に選手への負担は軽かったのである。



◎思いやり


スウェーデンと引き分けた後、監督・キャプテン・前キャプテンの結論は一致していた。「目標は金メダルであること。そして、そのためには選手の体力を温存しなければならない」ことを。すなわち、「シュートを打たないで欲しい」という佐々木監督の異例の指示は、監督の深い思いやりの現れでもあったのだ。

もちろん、選手たちも監督を信頼している。だからこそ、シュートを打たなかったのだ。そして、批判を一身に浴びた佐々木監督の気持ちも十分に分かっていた。

そこまでしてくれる監督を前にして、選手たちの士気は下がるどころか、逆にその結束を固くした。キャプテンの宮間選手は、言った、「すべてを背負ってくれたノリさん(佐々木監督)の想いを無駄にしてはいけない」と。「監督が受けた批判を跳ね返すためには、絶対に私たちが金メダルをとるしかない!」



悲願の金メダル。

思えば、前回の北京オリンピックでは3位決定戦に敗れ、目の前のメダルを逃した。そこには佐々木監督も澤選手も宮間選手もいた。その前のアテネ五輪ではベスト8、その前のシドニーでは予選敗退。

確実に力をつけていた”なでしこジャパン”は、今回こそはメダルに届くところまで来ていた。それも金メダル。まさに悲願の金メダルである。



◎ブラジルの高い壁


迎えた決勝トーナメント第1戦、準々決勝の相手は世界ランキング5位、オリンピックでは2大会連続で銀メダルのブラジルである。圧倒的な個人技を誇るブラジルには、5年連続でFIFAの年間最優秀選手のマルタ選手や、オリンピック2大会連続で得点王に輝いているクリスチアーニ選手がいた。

試合が始まると、圧倒的な個人技で押してくると思われたブラジルは、日本を警戒してか、慎重にパスを回してきた。なでしこジャパンのお株を奪う、組織的なパス・サッカーで仕掛けてきたのだ。しかも、その正確さと巧みさによって、日本はボールを触らせてもらえない。前半のある時間帯まではブラジルのボール支配率が70%を超えている。

「本当に耐える時間が長かった」と岩清水選手はのちに語っている。ずっと「自分の陣地」で敵にパスを回され続けた日本は、息つく間もないブラジルの波状攻撃を凌ぐのに精一杯で、「ブロックを引かざるを得ない状況」が続いていた。



その苦しい戦況の中、佐々木監督は戦術を大きく変える決断をした。「ブロックを引きながら、一発のカウンターを狙う」という作戦である。ブラジルの見せる「一瞬のスキ」を奇襲しようというのである。

その作戦の要となったのは、大儀見選手。日本の誇る点取り屋である。





◎一瞬のスキ


チャンスはいきなりやって来た。百戦錬磨の澤選手には、そのスキが見えたのであろう。フリーキックから、素早いリスタート、カメラも正確に追えないほど素早かった。送り出されたボールの先にいたのは、まぎれもなく大儀見選手。澤選手の素早くも正確なパスは、オフサイドぎりぎりのところであり、しかもキーパーと一対一の好位置であった。

「決めたーーーーーっ!!!!」。絶叫する実況。前半27分、苦しい中から一瞬のスキをついた華麗な一撃であった。

続く後半28分。やはり圧倒的に攻められ続けた状況から、大儀見選手によるゴール前への長いパス。それを冷静に決めた大野選手。またしてもカウンターの成功である。



結果はそのまま2対0での勝利。

終わってみれば日本の圧勝という数字であるが、前後半を通じて日本の放ったシュートは、たったの4本。なんとその2本がブラジルゴールを揺らしたのであった。



◎大儀見選手


一瞬のスキを突くという難しい戦術の要となり、一点目を取り、二点目のアシストをした大儀見選手。彼女はワールドカップから大きく成長した選手の一人である。もともと前線で点を取るのが得意であった大儀見選手であるが、点を取ることにこだわるあまり、守備をおろそかにするという欠点があった。そのため、ワールドカップではベンチに下げられてしまうシーンも…。

ワールドカップの準決勝、強豪ドイツとの戦いにおいて、大儀見選手はベンチに下げられていた。この試合で、日本は劇的な勝利を収めるのだが、ベンチの大儀見選手は一人涙を流していた。そんな孤立しがちであった大儀見選手に声をかけたのは、現キャプテンの宮間選手。

のちの大儀見選手は、その時のことをこう語っている。「あや(宮間)が自分のことをすごい必要としてくれた。それが嬉しかった。自分を必要としてくれた仲間がいたんだなと思えたことが…」。



今回のオリンピック、大儀見選手は献身的なプレーでチームに貢献することを決めていた。ワールドカップ後にドイツでプレーを磨いた彼女は、攻撃ばかりでなく、その守備力も大きく向上させていた。

そんな彼女がいたからこそ、ブラジル戦での針の穴に糸を通すようなチャンスが、貴重な得点に結びついたのだ。試合後の彼女のコメントは「少しでもチームに貢献できて良かったと思います」という実に謙虚なものであった。



◎絶対に負けられない


さあ、いよいよメダルの圏内に入りつつある”なでしこ”。次の準決勝の相手はフランス。この一戦に勝利すれば、メダルは確定する。日本女子サッカー史上初の快挙は目前であった。しかし、フランスは決して生やさしい相手ではない。直前の強化試合では、0対2の完敗を喫している。

試合前のロッカールーム、絶対に負けられない一戦を前にしたキャプテン宮間選手は、チームに結束を呼びかけた。「ここにいる一人でも欠けていたら、この舞台まで来ることはできなかった」と。

その言葉を聞いた佐々木監督は、思わず胸がつまった。彼の想いもまさに宮間選手と同じものであり、万感せまったのである。感無量になった佐々木監督、「スタッフルームに一回帰って、ちょっと涙を拭いてからベンチに向かいました」。



いよいよホイッスル。宮間選手の言葉に奮い立った選手たちは、序盤から試合の主導権を握り、前半32分にはフリーキックのチャンス。蹴るのはキャプテン宮間選手。

「いいボールが入ってきたー。キーパー届いている…? あーーっと、シュートーーー、決まったーーー! 大儀見選手だーーー、大儀見が決めましたーーーーっ! ニッポン、メダル獲得へ向けて先制点ーーーーー!!!」

フリーキックを蹴るときに、微妙にボールに変化を加えた宮間選手。キーパーはボールに手が届くも、その変化でポロリ。そのこぼれたボールを目敏くゴールに蹴り込んだのが大儀見選手。あたかも宮間選手の意図を察していたかのように…。

あのワールドカップから一年、お互いを信頼し合っていた2人は、この大舞台でその阿吽の呼吸により、貴重な一点をものにしたのであった。



リードしたまま迎えた後半早々、またもや宮間選手のフリーキックは得点に結びつく。

「宮間がまたフワッとしたボールを上げた~。それを坂口がシュートーーー、決まったーーー。ニッポン2点目ーーー。」

最後に決めたのは坂口選手のヘディングであったが、ゴール前でフランスのディフェンダーたちを一身に引きつけていたのは大儀見選手であった。まさに献身的なプレーが、チームメイトの得点に結びついたのである。



◎フランスの猛攻


さあ、2点差をつけられたフランス。黙っちゃあいない。後半の凄まじい猛反撃が始まった。後半31分、その猛攻を凌ぎ切れず、ついに日本が失点。2対1。そして、その直後、痛恨のPKをフランスに与えてしまう。

「PKか? PKだ!」。決められれば同点という絶体絶命のピンチ。しかし、勝利の女神はフランスに微笑まなかった。「外した、外したーーーっ!!!」。キーパー福元はまったく逆方向に飛んでしまっていたのだが、幸いにもPKのキッカーはゴールの的を外した。



ホゾを噛んだフランス、さらなる猛攻を重ねる。残り10分、フランスは必死であった。

立て続けに襲うフランスの強烈なシュート。日本の守護神・福元選手は、何度も何度も奇跡的な好セーブ。いつフランスに点が入ってもおかしくないという状況は、ロスタイムに入っても続いた。ロスタイムはおよそ4分。その終了間際までフランスは際どいシュートを放ち続けた。

「早く終わりにしてくれ…」と願わずにはいられないほどフランスは度々ゴールを襲い続ける。ロスタイムの間だけでも、結局4本もシュートを放っていた。





ピピーーーーッ!

試合終了。ついに凌ぎきった”なでしこジャパン”。この瞬間に銀メダル以上は確定した。

強かったフランス。日本はブラジル戦同様、数少ないチャンスを確実にものにした。日本の打ったシュートは、たったの3本。その2本が決まっているのだから…。



◎因縁


さあ、運命の決勝戦。相手はアメリカ。奇しくも、ワールドカップと同じ因縁のカード。

アメリカのエース・ワンバック選手はその意気込みを語る。「私たちの心の中にいつもあったのは、日本にどう勝つかということだけです。オリンピックで勝つのか、負けるのか? 重要なのはそれだけです」

オリンピック直前の強化試合、日本は1対4という大差でアメリカに完敗している。ワールドカップで日本に敗れたアメリカは、日本のパス・スタイルも自らの攻撃に取り入れ、もともとの大胆さに精巧さが加わっていた。



決勝戦が行われるのはサッカーの聖地、ウェンブリー・スタジアム。

いよいよ金メダルをかけた戦いが始まろうとしていた。「金メダルを取ること以外に考えたこともありません」とキャプテン宮間選手。

実況「夢を叶える90分。ついにキックオフです」



◎攻撃的なパス・サッカー


前半開始早々、アメリカの先制点。今大会で日本は初めて先制点を許してしまった。

「攻撃的なパス・サッカー」。これが”なでしこジャパン”の強さの秘密であり、彼女たちの原点であった。一点をとられた日本は、もはや攻めるしかない。ブラジル戦やフランス戦とは異なり、なでしこたちは攻撃的な姿勢を余儀なくされ、実際にアメリカゴールを攻め立てた。

前半17分、川澄選手のシュート。続く数分間に大儀見選手は3本ものシュート。惜しい、惜しい、惜しい! ぎりぎりのところでアメリカのキーパーの手が届く。宮間選手のシュートもクロスバーに跳ね返される。大野選手の強烈なミドルシュートは、わずかに枠の外。佐々木監督がガッツポーズをしかけたほどに惜しかった。思わず天を見上げる大野選手…。

ここで前半終了。



後半開始早々、またしてもアメリカに追加点。決めたのは1点目と同じ、ロイド選手。彼女はワールドカップ決勝でPKを外して、日本に勝利を与えてしまった選手でもあった。「強烈、強烈なシュートーーー! ニッポン、痛恨の2点目ーーー!」。点差は2点と広がった。残り時間はあと35分足らず。

追いつめられた日本の攻勢は続く。そして2点目を奪われた10分後、宮間選手から大野選手、そして澤選手、最後に大儀見選手へ。「ニッポン、押し込んだーーーーーっ。1点返しましたーーーーっ!」。ついに固い固いアメリカのゴールが割れた。

現在2対1。あと1点。残り25分。



◎なでしこサッカー


「最後まで誰も諦めていませんでした」と宮間選手。「チーム全員が取り返したいという気持ちでプレーしていたと思います」と澤選手。

リードされても力の限りに戦う”なでしこ”たち。そのプレーはまさに”なでしこのサッカー”。準々決勝よりも準決勝よりも、堂々とした戦いぶり。世界に誇れる日本のパス・サッカーがアメリカのゴールを脅かし続けた。

「今までになく、日本のリズムでした。日本の方がチャンスがあったんじゃないかというぐらいです」と岩清水選手。その言葉通り、日本のシュートはいつ点が入ってもおかしくないほど冴えていた。しかし、アメリカの守護神はその後ろにもう一人キーパーがいるかのように、神懸かった好セーブを続けていた。一対一という窮地に陥りながらも…。

激戦の中、好敵手たるアメリカは、期せずして日本の良さを最大限に引き出していた。華麗なる「パス・サッカー」、なでしこの原点がこの試合にはあった。





アメリカのゴールを再三襲ったなでしこたちであったが、2対1のまま、ホイッスル。

悲願の金メダルは、アメリカへ…。



◎夢破れて…


激闘の終わったピッチにへたり込むキャプテン宮間選手。そのまま後ろに倒れ込み、両手で頭を抱えたまま動けなくなってしまった。その周りに選手たちが次々と集まってくるも、彼女は立てない。

その宮間選手を抱えるようにして優しく立ち上がらせる佐々木監督。そして、その肩を抱いたのは大儀見選手。一年前とはまったく逆の光景であった。「何も言葉はかけてあげられませんでした…、そばにいてあげることぐらいしか…」と大儀見選手。



夢破れた選手たち。

その悲しみはロッカールームにまで引きずられて行った。

その涙は止まらない。



そんな暗いムードの中、ひときわ明るい大きな声が響き渡る。「銀メダル、おめでとーーーーっ!!」。その声の主はキャプテン宮間選手。さきほどまで涙に暮れていた彼女は、もうすっかり気持ちを切り替えていた。

その底抜けの明るさがみんなの笑顔を誘った。自然と輪ができて、「今から胸を張って表彰式に行こう!」ということになった。



その10分後、表彰式に現れた”なでしこ”たちは、涙から一転、満面も笑み。それはそれは楽しそうにはしゃぎ、その華やかさに他のチームも微笑むほどであった。

「あれは作りではなく、本当の笑顔だった」と佐々木監督。「ツラいことも、苦しいことも、共に経験してきた彼女たちだからこそ、心からの笑顔で喜ぶことができたんだと思います」



◎パスは次世代へ…


北京の悔しさから4年。ついに”なでしこジャパン”は、日本女子サッカー界に史上初のメダルをもたらした。

ダークホース的な優勝を果たしたワールドカップとは異なり、世界の強豪チームが打倒ニッポンを目指した中での銀メダルには、特別な価値があった。なでしこたちは王者として戦い、見事にメダルにまで手が届いたのだから。



川澄選手「一緒に戦ってきた仲間だからこそ、信頼し合って、ああいったゲームができたのかなと感謝しています」

澤選手「このメンバーでやれるのは最後の試合でした。18人のメンバーに居られて、すごく幸せでした」

宮間選手「今でもみんなの顔を見ると涙が出そうになります…。このメンバーでサッカーができて、本当に良かったです」



世界が認めた”なでしこ”の華麗なる「パス・サッカー」は、技術もさることながら、そのパスは信頼によってつながっていたのかもしれない。彼女たちの絆こそが、予選から決勝までボールをつないでいったのだ。

今回破れたとはいえ、そう悲嘆することはないのかもしれない。彼女たちのパスは着実に後続の少女たちにも受け継がれていくことだろう。宮間選手が小学生の時に思ったように、「世界にはばたくサッカー選手になりたい」と思う「未来のなでしこ」たちがきっといるに違いない。

そして、今回のなでしこたちがくれた感動は、その憧れをずっと大きなものにしたに違いない。



ロンドン・オリンピックは終わったが、なでしこの歴史は始まったばかりだ。

彼女たちはもっともっと強くなっていくに違いない。

世界が注目する日本の女子サッカー、いつかきっと、金メダルをとってくれるだろう。







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参考・出典:
NHKスペシャル 「涙と笑顔の初メダル」

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