2013年2月16日土曜日

帰ってきたキム・ヨナの笑顔。オンニ(姉)として…



「子どもの頃から、バンクーバーで終わりだと思っていました」

韓国フィギュアのプリンセス「キム・ヨナ」は、バンクーバー五輪での金メダルが最後だと、ずっと思ってきたのだという。

「だから、金メダルを獲ってからなかなか意欲が湧かないのも事実です…」



「カタリナ・ビットのように、オリンピック2連覇を目指してみれば?」

こんな記者の質問にも、キム・ヨナは柳美な眉を曇らせるばかり。



というのも、金メダルを獲ってからというもの、メディアや国民からの注目が凄まじく、それが競技以上の重い負担にもなっていた。

「インタビューで一言発するだけで話題を呼ぶような日常から抜け出したいと思う自分がいます…」

過度に集まる注目への負担。国民から関心が注がれれば注がれるほど、キム・ヨナは孤独感を深め、激しく葛藤するばかり…。



とあるビールのCM。それに出演したキム・ヨナは、不幸にも世間の大バッシングを受けることとなる。

「社会に大きな影響力を持つキム・ヨナが、成人したとはいえ、ビールのCMに出演するとは何事か! 青少年の飲酒を助長する恐れがある!」

このビールCMは、キム・ヨナが「スポーツ・スター」のイメージを利用して、商業活動をしている、そんな論争が韓国で巻き起こるキッカケともなってしまった…。







そうした騒動のさなかであった。

キム・ヨナの「ソチ・オリンピック挑戦」が表明されたのは(2012年7月)。

そのためか、一部のアンチ・ファンたちは、キム・ヨナの五輪挑戦を「ネガティブ・イメージ払拭のための方策ではないか?」と皮肉った。



はたして、彼女の真意は?

それは、キム・ヨナが幼い頃から通い続けているスケート場にあった。



ソウル市の泰陵スケート場。

バンクーバー五輪後、競技生活からは一旦離れていたキム・ヨナであったが、このスケート場にはずっと通い続けていた。それはアイス・ショーの準備や感覚維持のためであった。

通い慣れたこのスケート場はいわば、キム・ヨナの原点であり、ここには「未来のキム・ヨナ」を目指す可愛い後輩たちであふれていた。



後輩たちは、何十回と転んでも笑顔を絶やさない。

そんな健気な姿が、かつての自分とダブるにつれ、キム・ヨナの心は動き出していた。

「彼女たちの先輩として、そしてオンニ(姉)として、彼女たちの役に立ちたい…!」



キム・ヨナという不世出のスターの登場により、韓国ではフィギュア・ブームが巻き起こったものの、それでも女子選手の層はまだまだ貧弱である。

キム・ヨナは「キム・ヨナ奨学財団」を設立して若手の援助にも取り組んできたわけだが、今のままでは韓国のソチ五輪出場枠が「ゼロ」になってしまう危険性があった。キム・ヨナを欠いた2012年の世界選手権で、韓国勢は惨敗していたのだ…。



だがもし、キム・ヨナが2013年の世界選手権に出場して優勝(もしくは準優勝)すれば、韓国のソチ五輪出場枠は3枠、10位以内でも2枠は確保できる。

ゆえにキム・ヨナはふたたび戦う決意をした。

「後輩たちのため、ひいては韓国フィギュアのため」に、キム・ヨナは現役復帰、そしてオリンピック挑戦を決心したのだった。







心を決めたあとのキム・ヨナは一心不乱、コーチ陣が舌を巻くほど練習に励んだ。

練習は毎日7時間。朝9時のストレッチに始まり、午後2時までは氷上で汗を流す。猛スピードで7分間滑り、一分間休むというインターバル・トレーニングは40分以上。コンビネーション・ジャンプを繰り返す姿は「怖いほどに真剣」で、「思わず鳥肌が立つほど」であった。

午後3時からの2時間は、スケートブーツを脱いで地上での体力トレーニング。



「昔からそうだが、今もキム・ヨナは負けず嫌いだ」

コーチの一人はそう話す。ヨナは練習メニューをすべて消化できないと、ひとりで居残ってでも体力トレーニングをするのだった。

「練習の成果は、彼女の足を見ればわかる」

復帰前にミニスカートをはいていた彼女の足は、女子大生のようにスラリとしていた。ところが今や、それはアスリートの足そのもの。歩くたびにふくらはぎの微細な筋肉まで確認できるほどだ。



「練習通りにやれば、世界選手権で優勝できる」

「今のような演技を続けていれば、ソチ五輪の金メダルも難しくはない」

女王キム・ヨナは、長き空白期間を経てなお、その圧倒的な表現力と高い技術には、衰えを見せていなかった。昨年12月のドイツでの大会(NRW)、そして今年1月に行われた韓国選手権の両方で、キム・ヨナは200点を突破してみせた。



圧巻の復帰を果たしたキム・ヨナに、韓国国内の「スンニャンイ(コヨーテという意味)」と呼ばれる熱狂的なファンたちは歓喜した。彼らがリンクに投げ込むプレゼントは、まさに雨の如し。

「その数じつに200以上。リンクに散らばったバラの花束やキム・ヨナをあしらった手作り人形を拾うため、10分以上の時間がかかったほどである」

久々に氷上で見られた「ヨナ・スマイル」。女王はふたたび笑顔を取り戻して、帰ってきたのだった。



キム・ヨナはソチ五輪でも「感涙の雨」を降らすことができるのだろうか。ライバル浅田真央との対決にも注目が集まる。

オリンピック2大会連続の金メダルの期待がかかるキム・ヨナであるが、「それが叶わずとも、彼女に失望の声を浴びせる者はいないだろう」。

「国民のプリンセス、キム・ヨナがふたたび氷の上に立ち、新たなドラマを見せてくれるだけで、多くの韓国人は大満足なのだ…!」





ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 2/21号 [雑誌]
「愛する母国のために キム・ヨナ」

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