2013年4月19日金曜日

世界トップ級の一人「安楽智大」。春のセンバツ



「春のセンバツのヒーローは間違いなく、済美の2年生エース『安楽智大(あんらく・ともひろ)』だった(Number誌)」

済美高校は決勝で敗れはしたものの、安楽への賛辞は海を超えてやって来た。



「16歳投手では世界トップ級の一人。94マイル(約152km)の速球にカーブも平均以上。身体に柔軟性があり、類まれなる才能の持ち主」

アメリカの野球専門誌「ベースボール」は、安楽を手放しで褒め称え、メジャー予備軍にリストアップした。

日本球界の居並ぶスカウト陣も「素晴らしい」「破格だ…!」と感嘆。一人の例外もなく安楽を認めた。さらには、2014年のドラフト1位候補とも、すでに囁かれている。



186cm、84kg。恵まれた体格の本格派右腕「安楽智大(あんらく・ともひろ)」。

今大会は67回1/3(772球)を投げ、87奪三振。広陵高校戦では、152kmの豪速球ストレートでスタンドを騒然とさせた(高校2年生では史上最速)。





その怪物も、3連投のあとの決勝戦では、さすがに力尽きた…。

4回までは緻密なコントロールで、浦和学院の迫力満点、規格外の強打クリーンナップをほぼ完璧に封じ込めるも、5回には5連続長短打を浴びて7失点。

「2年生エース安楽が初めて経験する屈辱だった(MSN産経)」



安楽の肩には、決勝までの自身初の3連投がたたり、目に見えない疲労が確実に蓄積されていた。

「自分が自分じゃなかった…」と振り返る安楽。

この日の決勝戦では、自慢のストレートが130kmに満たない苦しい場面も見られた…。



済美の上甲監督は、安楽の将来を懸念していた。3連投を含む準決勝までで、安楽の投球数はすでに663球に達していたのだ。複数のアメリカ・メディアもその多すぎる投球数を「懸念材料」として記事を掲載していた。

それでも、安楽はマウンドに立つことを監督に希望。その気持ちは、5回に大量失点したあとでさえ、微塵も揺るがなかった。



「あと1イニングだけだ」

上甲監督は苦悩の末に、満身創痍の安楽をマウンドに送り込んだ。あと1イニングだけ…。

しかし、その6回、安楽はさらに2失点。浦和学院に8点差とされた時点でマウンドを降りた…。



うつむく16歳、安楽…。悔し涙が甲子園の大地にあふれる。

その疲労困憊の姿が、国際的な議論を呼んだ。

「高校2年生にあれだけ投げさせるのはクレージーだ!」

国際野球連盟(IBAF)は、日本高野連にそんなメールを送りつけた。



9日間で772球の力投となった安楽智大。

「米メジャーの投手なら、5〜6週間分に相当する。決勝戦ではスピードが10kmも落ち、力尽きていた」

そう書いたアメリカ野球専門誌「ベースボール」は、安楽の「酷使」に眉をひそめた。



なんと言われようと、上甲監督は安楽の思いを汲んでやらずにはいられなかった。

「彼一人の力で決勝まで来たので、最後の思いを尊重してやりたかった」

続投を熱烈に希望した安楽。それは高校生らしい若さの力であったのか。安楽自身は投球数の監督への非難に対して、こう反論している(決勝戦前)。

「日本の高校野球は、そういうものです。潰れるというけど、僕は冬練習でしっかり投げ込みもしてきた。これくらいは投げ過ぎだというような球数ではない」



なんと剛腕らしい回答か。大人たちの心配をよそに、きっと彼はそうやって世界を広げていくのだろう。

安楽はまだ2年生。卒業するまで甲子園を沸かせてくれる逸材のままであってほしい。

安楽は150kmではとどまらない。彼の目標は「160km」なのだ!







(了)






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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 5/9号 [雑誌]
「高校野球のセオリーが見直された春のセンバツ」

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