2013年4月28日日曜日

なぜ、バイエルンを選んだのか? 稀代の名将グアルディオラ



「こんな強いバイエルンは見たことがない…」

辛口で知られる元GK(ゴールキーパー)のカーンは、そう絶賛する。

「現在のバイエルンは、クラブ史上最強かもしれない(Number誌)」



今季のバイエルンは、ブンデスリーガ(ドイツのサッカー・リーグ)の優勝を史上最速で決めた(4月6日)。リーガ2連覇中だった王者ドルトムントには1度も負けなかった。

そしてさらに、欧州CL(チャンピオンズ・リーグ)では準決勝に進出。その第1戦でバルセロナ(スペイン)に圧勝して見せた(4対0)。



「この伝説的なチームが生まれたのには、明確な理由がある。きっかけは昨季、CL(チャンピオンズ・リーグ)決勝において、PKの末にチェルシーに敗れたことだった(Number誌)」

1点をリードしていたバイエルンであったが、試合終了間際の88分にドログバのヘディングで追いつかれ、延長線ではPKをもらいながら止められ、最終的にもつれ込んだPK戦で敗れた。

「ホームでの屈辱的な敗北を味わった(Number誌)」



この屈辱によって、バイエルンのプライドと傲慢さは打ち砕かれた。

「自分たちは謙虚になった」とトーマス・ミュラーは語る。



かつてのバイエルンならば、他のチームを手本にするようなことはなかったかもしれない。

だが、「全員が成長に飢えていた」。

ドルトムントとバルセロナが、ボールを奪われた瞬間にプレスをかける守備(Gプレス)、その映像をハインケス監督は選手たちに見せた。

「その結果、ボールを失った直後のハイプレスは、バイエルン再生の最大の鍵になる(Number誌)」



「ときどき相手陣内で、わざと相手にボールを渡すんだ」

敵将、バルセロナのグアルディオラ監督は、かつてそんなことを言っていた。

「常に自分たちがボールを持って攻撃しようとすると、相手は秩序だって守るようになる。けれど、ボールを渡せば、必ず相手は前に出ようとする。その瞬間にボールを奪えば、ゴール前に侵入できる」



最強指揮官の呼び名の高い、元バルセロナのグアルディオラ監督。リーガ3連覇、CL(チャンピオンズ・リーグ)を2度制した名将中の名将。メッシを中心としたバルセロナの黄金時代を築き上げた名監督だ。

その彼が、来季よりバイエルンの指揮を執ることとなる。







「なぜバイエルンを選んだのか? 2013年のサッカー界の最大の謎の一つだ(Number誌)」

バルセロナを去った後のグアルディオラ監督には、ビッグネームからの勧誘が引きも切らなかった。マンチェスター・シティ、チェルシー、ACミラン…。年俸の提示額も、他クラブの方が高かったと言われている。

ドイツのブンデスリーガは、イングランドのプレミアリーグやイタリアのセリエAより下のランクとも見られていた。



「僕はサインするべきかな?」

3時間に及ぶ交渉の末、グアルディオラ監督は、バイエルンのヘーネス会長にそう聞いた。

「悪くないアイディアだ」

ヘーネス会長は、そう答えた。それが、「バイエルン史上初のスペイン人監督」が誕生した瞬間だった。



ヘーネス会長は、グアルディオラ監督がバイエルンを選んだ理由を、キッカー誌のインタビューでこう明かしている。

「決め手になったのは、バイエルンとバルセロナの『フィロソフィー(哲学)』がとても似ていたことだった」と。



何より共通していたのは、「クラブのレジェンドたちに最大の敬意を払っていること」だった。

現在のバイエルンでは、元選手たちが多く指導者として働いており、元選手たちの子弟もまた多くチームに在籍していた。

「バルサのカタランという民族性とは異なるが、『血の結束』がある点で極めて似ている(Number誌)」



「伝統と結束」

それが、バイエルンとバルセロナの共通項だった。

「オイルマネーに簡単にクラブを売り飛ばすチームとは一線を画するのだ(Number誌)」



近い将来、ヨーロッパのクラブシーンで、大きな「ルール変更」が行われようとしている。

「ファイナンシャル・フェアプレーの適用がさらに厳格になり、オイルマネーによる赤字補填が許されなくなる可能性が高い(Number誌)」

そうなると、バイエルンには大きなチャンスとなる。バイエルンの総資産は約1,600億円、自己資本比率は78%、超優良企業なのだ。



「今のバイエルンは強いが、まだまだ伸びるポテンシャルがある」

元GK(ゴールキーパー)のカーンは言う。

「来季、グアルディオラ監督がこのチームをどう進化させるのか。バルセロナのようにヨーロッパを支配できるかどうかが楽しみだ」



バルセロナは、当のグアルディオラ監督が生み出した世界最強のチーム。

その生みの親がまた、新しいチームを率いて子供たちを打倒するというのも、因果なシナリオである。

しかし、それは夢ではない。稀代の名将は今、その準備が整っている。







(了)






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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 5/9号 [雑誌]
「グアルディオラ&バイエルン 最強指揮官がバルセロナを倒す日」

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