2013年4月9日火曜日

「あれは絶対にやってはいけないプレー」吉田麻也(サッカー)



「あれは絶対にやってはいけないプレー。言い訳の余地なんてない…」

サッカー日本代表「吉田麻也(よしだ・まや)」は、悔しさのなかに情けなさを滲ませる。



痛恨の対応だった。

ヨルダン戦の後半15分、一点ビハインドを追いかける日本の攻勢の狭間で生まれた「一瞬のスキ」。



中盤でSB酒井高徳がボールを失い、そのボールは前線で待ち構えていた10番ハイルの足下へ。カウンターだ!

そのハイルの前に立ち塞がる吉田麻也。完全な1対1である。抜かれるわけにはいかない。吉田の後ろには、もうキーパー川島しかいないのだから…。



「あのシーン、相手の10番(ハイル)がボールを受けて、最初のワンタッチが大きくなった時、僕はスライディングしようか迷った」

吉田を一瞬迷わせたのは「ファウル」への警戒だった。「中東なので、万が一、変な笛を吹かれて退場になったら、たまったもんじゃない!」。普段プレミアリーグ(イングランド)で当たっているような力加減だと、アジアではファウルをとられることも多かった。



あの一瞬の間、吉田は考えすぎていた。

「考え過ぎてしまったことでプレーがはっきりせず、良くないコースに走ってしまった…」

そこをヨルダンの10番ハイルは、スピードに乗ったドリブルで、あっさりと吉田を交わす。あまりスピーディな印象のなかった10番だったが、ここぞの場面で急加速したのであった。



「代表戦というのは、国の威信をかけた戦い。だから相手も普段の実力以上のモノを出そうとしてくる」

最後はGK(ゴールキーパー)川島永嗣も破られ、日本のゴールネットは揺らされた…。痛恨の2失点目。まさかヨルダン相手に2点も引き離されるとは…(この時点で0対2)。

そして結果的に「この2失点目が、日本のW杯出場へ足踏みさせてしまうキッカケとなってしまった(Number誌)」。最終結果は1対2で日本の敗戦に終わった。



「はっきり言って、プレミア(イングランド)で戦っている選手がこんなプレーをしたらダメです」

吉田麻也は自分の不甲斐なさを、そう振り返った。CB(センターバック)という守備ポジションは、普通に相手を抑えていれば目立たない。だが、やられたときには誰よりもミスが目立ってしまう。

「僕たちCBは、チームのミスのほとんどを最終的に尻拭いしないといけない。CBはそれぐらい大きな責任を負ったポジションだと思っています」と吉田は言う。



たとえ味方のミスから失点したとしても、評価が下がるのがCB(センターバック)の宿命。

今回の失点シーンに関しても、キャプテンの長谷部誠は「あの失点は1人だけの責任ではないんです。みんなの責任なんです」と語ってはいる。それでも最終的な責めを追うのは、最後に抜かれたCB吉田麻也であった。



「あいつ、プレミアで戦ってるくせに、なんであの突破を止められなかったんだ?」。そんな批判にされされるのも、CB吉田の宿命であった。

「このポジションを選択した以上、それも受け止めて戦っていかないといけない」と、吉田はその覚悟を口にする。



ミスがそのまま失点に直結するCB(センターバック)。

「CBはワンプレーで、全てが変わってしまう。だから、もっと『重み』のあるプレーと自分自身をつくっていかないといけない」と吉田は語る。



今年の8月で25歳を迎える吉田麻也。

「今の吉田は、まだ『軽さ』が抜け切らない(Number誌)」。



失点直後、吉田は茫然自失で立ち尽くしていた。

「W杯出場の切符をかけた大事な試合で、大きなミスをした自分の未熟さを痛感していました…」と、吉田は語っている。



この試合、吉田にミスらしいミスはほとんどなかった。この2失点目のシーンくらいしか…。

「この一回のミスに尽きます。あれは絶対にやってはいけないプレーだったんです」



重く、重くのしかかる失点。

その途轍もない重さに、吉田は奥歯と噛み、両脚を踏みしめる…。

それを自らの重さへと昇華させるために…。







(了)



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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 4/18号 [雑誌]
「言い訳の余地なんてない 吉田麻也」

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