2013年5月10日金曜日

「挫折」と松岡修造




テニス・プレーヤー「松岡修造(まつおか・しゅうぞう)」、当時21歳。

プロに転向してから3年目、世界ランクも着実に上昇し、「さあ、これから」という矢先、両膝の半月板を損傷し、手術をすることになってしまう。



「どうして僕だけが、こんな酷い目に遭うんだ…」

松岡は被害妄想に陥っていた。



そこに現れた一人の少女。松岡の大ファンだという彼女は、同じ病院に入院していた。

「私の分まで、カンバってください!」と少女は満面の笑みで、落ち込んでいた松岡を励ました。

少女の気持ちをもらって元気の出た松岡。「よっしゃ! きみの分も頑張る! ありがとう!」



しばらくしてから、松岡のもとには「少女の死」が知らせられる。

白血病だった彼女は、余命が2週間しかなかった…。



松岡は恥じた。自分の不甲斐なさを。

膝の怪我ごときで滅入ってしまっていた自分を。

あの少女は命の火が消えかかってなお、そんな自分を励ましてくれていたのだ…!



「あの少女との出会いは、僕にとって大きなものでした」と、のちの松岡は語る。

哲学者・森信三は、こんな言葉を残している。

「人は一生のうち、出会うべき人に必ず出会える。しかも、一瞬遅すぎず、一瞬早すぎず」



「なぜ少女と出会えたのか。それは僕が求めていたからだと思うんです」と松岡。

森信三いわく、「内に求める心なくんば、ついにその縁は生じざるべし」。







少女との出会いから、松岡は変わった。

「挫折」というものの考え方が変わった。

「挫折を敗北ととらえ、もう終わりだ、と受け止めることが多いと思うんですが、そうじゃない人もいるんです」と松岡は言う。



実際、一度も挫折することなく、世界の頂点に立ったアスリートなど皆無である。

ウィンブルドンでベスト8入りを果たすことになる松岡修造にしても、レスリングの吉田沙保里にしても、水泳の北島康介にしても…。



「挫折するのは、目標がしっかりしている証拠です。どうでもいいやと取り組んだことに挫折する人はいませんから」と松岡は言う。

どうやら、トップアスリートたちは「挫折」や「敗北」の捉え方が、他の人たちと異なるようである。



「挫折を好きになれば、きっと前を向いていけるはずなんです」

それは情熱か、根性論か?

「いや、テクニックです」と彼は言う。「なんでも前向きに捉えられる人など滅多にいませんから」








(了)






関連記事:

90'sの名勝負(テニス)。「伊達公子vs女王グラフ」

選手たちの「心の声」、そして「支える力」。

「狙う能力」。錦織圭(テニス)



ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 5/9号 [雑誌]
「熱血スポーツキャスターが説く”挫折”との付き合い方」

0 件のコメント:

コメントを投稿