2013年5月20日月曜日

型をもたない「青木宣親」。無名から米メジャーへ [野球]




打つ、打つ、打つ。

アメリカ大リーグ2年目、ブルワーズの「青木宣親(あおき・のりちか)」。

変幻自在のバッティングで、今季の打率を3割の大台に軽く乗せている。「1番右翼」はすっかり定位置となっている。



「型のない型」

それが青木のスタイル。

「まあ、型がないのが、僕の型じゃないかな」

打ちまくる彼の打撃理論に、固定観念はないという。



「青木が打撃フォームを変える頻度は、他の選手と比較にならないほど多い。それは試合のたびごとであったり、打席ごとであったりすることも珍しくない(Number誌)」

「これかなと思っても、すぐに逃げていくし、その繰り返しです」と青木。「だけど自分では、常にいいもの、悪いものという区別は感じています」

相手投手、試合状況、カウント別でもフォームを変える青木。その瞬間ごとに最善のフォームを嗅ぎ分け、そして結果を残してきた。



「僕はどんな投手でも打ちたいですから」

と青木は、その貪欲さを見せる。

「だから、自分も相手によって変わってもいいんじゃないかなと思っています」



青木宣親にとっての、野球の原風景。

それは、生まれ故郷・九州宮崎の牧歌的な風景。温暖な日差しの中、少年・青木は無心に白球を追いかけていた。

少年・青木は、そんな風に吹かれた「自然児」だった。



今は左打ちの青木も、小学生の頃は「右投げ右打ち」だった。

それが「右投げ左打ち」になったのは、当時の野球界でそれが流行していたから。兄が最初にやり始めたのを、ただ何となく真似たのだという。

「普通に打てました。そんなに右と変わらなかったです」

ほとんど違和感がなかったという初めての左打ち。すでに青木の打撃感覚は常識外れの柔軟性をもっていたのかもしれない。



日向高校に進学した青木。

野球部には在籍していたものの、日向高校はスポーツ推薦とは無縁の進学校。甲子園への願いは、はかなくも実らなかった。

当然、高校時代は無名。プロ入りの声もかからない。その後、青木は大学球界の名門、早稲田大学に進学することになる。



その1年先輩には和田毅(現・オリオールズ)、同期には鳥谷敬(現・阪神)ら甲子園組が、すでに洗練されたスタイルでチームを牽引していた。

「彼らに対しては、すごいな、やってんな、と思いました」

青木はその俊足は買われていたものの、まだ基本もないほどに、打撃には大きな差があった。



それまでの青木はまさに「自然児」。良くも悪くも、型もなければ、色もついていなかった。

ある意味、発想は自由自在。他人の意見には積極的に耳を傾け、「いいと思えば、納得するまでトライした」という。



早大卒業後、青木はドラフト4位でヤクルトに入団(2004)。

在籍8年間で、首位打者3回、200本安打を2回達成。

自らが感じていた「打者としての才能」は、柔軟性を保ったままに開花した。



そして2年前、青木はアメリカに渡り、入団テストの末、ブルワーズに移籍。1年目は控えからのスタートだった。

それでもボールは見えていた。「選球眼とバットに当てることに関しては、アメリカでもトップクラスにいるかなと思いました」と青木。

だが、「ボールが前に飛ばない」。そこはパワーではなく、技術でカバーしていった。



31歳となった今季、青木宣親はすっかり大リーガーになっていた。

ブルワーズのリードオフマン(1番打者)となった青木は、誰はばかることなく「年間200本安打」を目標に掲げる。もし達成されれば、日本人メジャーとしては、イチロー以来2人目となる偉業である。

「1番という打順で、故障なく出場すれば、年間700打席前後に到達する。もし打率3割を維持できれば、その大台も見えてくる(Number誌)」



「最近はだんだんシンプルになってきました」

もともと型をもたない青木のバッティングは、さらに不要な部分が削ぎ落とされてきたという。

「昔を思い出すこともありますが、それが消去されていくという感じです」



より柔軟に、よりシンプルに。

かつて新陰流という剣を生み出した「上泉伊勢守」は「無位無形」、すなわち剣を構えることがなかったという。それは、敵のいかなる攻撃に対しても、千変万化・自由自在に対応するためであった。

そんな剣聖の歩んだ道。青木宣親のバットには、そんな香りが漂っているかのようである。












(了)






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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 5/23号 [雑誌]
「僕が野球の常識を疑う理由 青木宣親」

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