2013年7月11日木曜日

シンプルに、気持ちを乗せて。上原浩治 [野球]



アメリカ大リーグ「レッドソックス」

ピッチャー「上原浩治」38歳。

メジャーはオリオールズ、レンジャーズと経て今季5年目となる。



その投球スタイルは、日本時代とほとんど何も変わっていないという。

「基本的な武器は、140km台前半の『ストレート』と『フォーク』の2つだけ。この2つの球種だけで、巨人時代もメジャーに来ても、18.44m離れた相手を見事なまでに牛耳ってきた(Number誌)」



上原は言う。「スピードガンはあくまでファンサービスだからね。それよりもバッターの体感スピード。速ければ速いほどいいというわけじゃない。僕は150km出したことないんで(笑)」

140km台前半という上原のストレートは決して速いわけではない。だが、「このストレートを高めに投げると、面白いようにメジャーの打者から空振りを奪える」という。

その秘密はボールの「回転」と「切れ」にあるのだという。






上原のストレートは、いま流行りの動くボール(ツーシーム)ではなく、メジャーでは少数派となった「フォーシーム」。

「きれいに縦回転がかかってホップするようなボールが高めに決まると、ツーシーム系の球筋に慣れている打者たちは思わずバットを出してしまう(Number誌)」

ツーシームというのは、サッカーでいえば無回転の「ブレ球シュート」のようなもで、左右に微妙にブレる。一方、フォーシームというのは一般的なストレートのことである(それぞれは指のかける縫い目が異なる)。

上原は言う。「動かせ、動かせって確かに今の時代、そういう風になっていると思うけど、基本はやっぱり『きれいな真っ直ぐ』だと思う。ツーシームは投げられないというのもあるけど(笑)」




そして「決め手」はフォークボール。

打者の目線をストレートで高めに誘っておいて、最後に落とす。高低の幅を存分に生かした投球術。それが上原浩治が常に追い求めてきたものだという。

彼にとって、球種を増やして投球の幅を広げるという考えはない。むしろその2つだけの球種をいかに磨き、コントロールの精度と切れを高めていくかというのが上原にとっての「幅」なのだという。



「巨人時代に工藤(公康)さんに『球種を増やそうと思っているんです』って相談したことがあるんです」と上原は言う。「そうしたら、『いま持っているボールの精度をもっと上げる方がいい』と言われました」

その言葉を頑なに守った上原は、一つのボールを磨けばその幅が広がるということに気づいていく。

「ストレートにしても、切れのあるボールをきちっとコースにコントロールできるようになれば、それだけで2つの球種と考えることができるんです。ものは考えよう。ストレートが1つじゃなくて2つになる。フォークもそう。フォークも単に1つの球種じゃない。きちんと投げ分けができれば、全然違うと思うんです」

腕の振りも変えれば、さらに2倍にも3倍にも「違うボールの種類」として打者に映るのだという。






そしてあとは「気持ち」だ。

「迷ったりしたら、やっぱりその迷いがボールに伝わるんです。気持ちって正直だと思う。ホントに自分が投げたいボールに100%の気持ちを乗っけて投げれば、ド真ん中にいってもそんなに打たれることはないんです」と上原は語る。

100%の気持ちが乗り移ったストレートは、たとえ140kmというスピードといえど、唸りを上げて打者に映るのだという。

なるほど、スピードにしろ球種にしろ、上原の投球術はその上辺では判断できないということだ。



ちなみに上原は3年前にフォームを少し修正している。それはメジャーの硬いマウンドに合わせたもので、踏み出す左足を以前より前に流すようにしたのだという。

それを上原はこう説明する。「それまでは、踏み出した左足の真上にピンと立つイメージでしたけど、今は立つ前にキャッチャー方向に逃がすという感じですね。逃がすといっても前に逃がしている。投げる方向はその前方向なんで、パワーを損するという感じじゃなくて、より勢いが乗るという感じ」

すなわち、ますますボールに勢いと気持ちが乗りやすくなったということだ。



だが上原にも「フォークボール・ピッチャーの宿命」はつきまとう。

上原は言う。「僕の場合は、一歩間違えればホームラン。フォークボール・ピッチャーには、どうしても一発がつきまとう」

今季の失点は、ほぼ全部がホームランだという。

「ホンマ、気持ちよく打たれるか、気持ちよく抑えるか。中途半端がない(笑)」






今年で38歳の上原浩治。

その右腕は精神的にも技術的にも円熟の境地に入りつつあるが、気持ちはますます高まりつつある。

「38歳でもまだまだ伸びると思っています。決してこれが頂点だとは思っていない」と上原は言う。それは「ゴールをつくっていない」からだという。

彼は最後にこう語る。「何かを求めたら、そればっかり求めてしまうので、数字は求めない。その日、その日を全力で投げるだけです」



湧き出でる「気持ちのガソリン」

その精緻かつシンプルな投球は、メジャーの強打者たちから「気持ちの良い空振り」を奪い続ける。













(了)






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ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 7/11号 [雑誌]
「ガソリンが切れるまで突っ走る 上原浩治」


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