2013年11月1日金曜日

”すべて”を変えた浅田真央。すべてを賭けて [フィギュア]



バンクーバー五輪(2010)

銀メダルをとった浅田真央(あさだ・まお)に、松岡修造は訊ねた。

「これから何を変えたいですか?」



彼女は即答

「”すべて”です」

19歳だった彼女は、銀メダルに悔し涙をながした。







松岡は言う

「じつは真央さんほど応援していて緊張する選手はいない。彼女の心がそのまま観ている僕たちにも伝わってくるからです。とくにトリプル・アクセルにむけて助走する数秒は”最も力が入る瞬間”。ぼく自身も緊張と興奮のはざまにいる。失敗したときには残念というよりも、真央さんの悲しむ表情を見ることのほうがツラくなる…」



——素直でまっすぐ、そして言い訳をしない。

 リンクにはいつも誰よりも早く立ち、最後まで滑り続ける。日々、繰り返しの練習。トリプル・アクセルも転んでは立ちあがり、コーチから止められるまで決して諦めようとしない(Number誌)。






今季、浅田真央はソチ五輪(2014)を”自らの集大成”とすることに決めている。じつは昨季、彼女の口から「スケートをやめようと思った」とこぼれていた。

松岡は言う、「一瞬、ぼくは言葉を失った。真央さんがそこまで追い詰められていたのか、と。彼女だったらどんなことでも乗り切ってくれるだろう、と安易に考えていた自分が後ろめたくなった」



はじめてスケートと距離を置く時期をすごした浅田真央。

昨季の戦績は6勝5敗と圧巻だった。それでも彼女に会心の笑みはなかった。

「自分の演技がまだまだだったので…」








バンクーバー五輪のあと、”すべて”を変えたいと願った彼女は、コーチ佐藤信夫のもと、スケーティング、ジャンプ、ステップのすべてで”新たな浅田真央”をつくりあげた。

今季の幕開けを前に、その”新しい”彼女の言葉は力強かった。

「いまは自分の目指している演技に近づけているとすごく感じています。良いシーズンになると思います」



その言葉を象徴した、今季GP(グランプリ)シリーズ開幕戦。スケートアメリカ。

——去年までとは、まるで別人だった。ジャンプや滑りだけではない、ちょっとした表情や仕草までが違うのだ(Number誌)。

ショート・プログラムは、トリプル・アクセルでわずかに両足着氷とはなったものの、ほかスピンやステップはすべて最高のレベル4。71.18点で余裕の首位発進。

浅田は言っていた、「初戦から”トリプル・アクセルに挑戦できる状態”なのが、これまでと違います。今季は練習でしっかり跳べているので、そのまま試合で出せばいいと感じています」



コーチの佐藤は「彼女は大人になった」と言う。

じつはコーチに就いた当初、佐藤は「まだ20歳の女の子。つかみどころがなく、会話することさえ難しい」と述懐していた。

佐藤は言う、「以前は”赤ちゃんがただ泣いているような感じ”で、何が欲しいのか僕が想像しなければならなかった。だが今は、彼女は自分で意思表示できる。ぼくも明確に指摘できるので、練習がぽんぽんと進むようになりました」

”大人”になった浅田は言う、「先生の目指すものが、ようやく身体に染み込んできたな、と感じています」



首位でむかえたフリーの演技

浅田は冒頭のトリプル・アクセルで転倒した。

その失敗をうけ、彼女は「3回転+3回転」などの大技を、その後すべて回避。無茶なジャンプを跳ばずに演技をまとめ、自己ベストまで約1点と迫る総合204.55点で優勝を飾った(GP12勝目・日本最多記録を更新)。

勝った浅田は、こう振り返る。「リスクを背負ってまで3+3をやらなくても良いと思って、とっさの判断で3+2にしました。後半も転倒の疲れで力が入らなかったので(3回転の回避を)判断しました」



そうした的確な判断は、佐藤コーチに言わせれば「スケートの定石」である。だが、今季好調の浅田に彼は”さらなる高み”を求める。

佐藤は言う、「去年は”ジャンプの調子をみて今日は無理と思えば止めなさい”と言っていました。でも今はいい感じで仕上がっています。作戦など考えず、途中でミスがあっても”攻めの気持ち”で強引にやらせる時期になりました。トリプル・アクセルも3+3もどんどん挑戦させてやりたいです」

浅田はそれにこう応える。「判断できたのは”成長”とも感じます。でも、判断した余裕があるとも、力不足とも思います。転倒してリズムが崩れて『もう失敗したくない』という気持ちが出てしまいました」

——作戦は「攻め」へと切り替える段階だというのだ。2人は一足飛びで階段を駆け上がっていくかのようだ(Number誌)。






松岡修造は、浅田真央をこう評する。

「何があっても上を向いて歩んでいく、一生懸命すすんでいく姿を愛さずにはいられない。それほどまでに”想いを共有できる選手”なのだ」

松岡は浅田に訊ねる、「集大成となるソチ・オリンピックでの、演技のこだわりは?」

彼女は間髪いれず

「”すべて”です!」

そう即答した。








——スケート人生を賭けた戦いがはじまった。

 いままででイチバン強い浅田真央を、今まででイチバン応援したい(松岡修造)






(了)






ソース:Sports Graphic Number (スポーツ・グラフィック ナンバー) 2013年 11/14号 [雑誌]
「浅田真央の人生をかけた舞台の幕があがるとき 松岡修造」
「ソチ五輪まであと100日 浅田真央」



関連記事:

一歩引いた浅田真央。さらなる高みへ!

笑顔の少女、大人のスケーターへ。村上佳菜子 [フィギュア]

「なすがまま、なるがまま」 高橋大輔 [フィギュア・スケート]


0 件のコメント:

コメントを投稿