2015年1月26日月曜日

心のリセット [ジョコビッチ] テニス


テニスの錦織圭は言う。

「各が違うのはトップの3人です」



その”トップの3人”とは

ノバク・ジョコビッチ
ロジャー・フェデラー
ラファエル・ナダル



―― 2005年の全仏以降、四大大会の優勝をBIG4が独占した(2009年全米が唯一の例外)。ジョコビッチ、フェデラー、ナダル、マリーの4人が黄金期を形成。5番手以下の選手が四大大会を制するのは難しいと思われてきた(Number誌)。



現在、テニス世界ランキングの1位の座にいるのは

ノバク・ジョコビッチ

長らく続いていた”ナダルとフェデラーの2強時代”。そこに割入ったジョコビッチ。そして今、ナダル、フェデラーの2強はジョコビッチの足元に抑え込まれている。



ジョコビッチは言う。

「2013年の全仏準決勝、フルセットの末にラファ(ナダル)に敗れた。もうちょっとで難攻不落のラファを倒せるところだったから、もの凄く大きな失望に襲われたのを覚えている。あの敗戦は、自分の精神力とパーソナリティを鍛え上げるうえで、最も大きなレッスンだった。だから4時間37分に及んだ試合を綿密に分析したと同時に、そこに至るまでの3週間も丹念に検証した」

ジョコビッチは続ける。

「敗北は、嫌がおうでも自分と向き合うことを強いる。内面の最も深い部分、奥底に隠れた恐れや疑念、フラストレーションなどと向き合わざるをえなくなる。それらが具体的に何なのかを、はっきりさせる必要があるからだ。一方、試合で勝ったときは、試合の内容が悪くとも気持ち良く感じ、やがてそれは過信に変わる」



精神面の深い分析を、ジョコビッチは専門家に任せない。自らそれを行うという。

ジョコビッチは言う。「心の奥底にまで入り込んで、敗北の原因をはっきりさせ、精神的に強くなる。自分がどうなりたいのか、外からどう見られたいかを知っておく必要があるのは自分自身だからだ」

たとえば2013年全仏での痛恨の敗戦のあと、ジョコビッチは心のリセットを実行した。

ジョコビッチは言う。「次のウィンブルドンに出かける前に、フィアンセとイタリア旅行をしてすべてを忘れた。その結果、全英では決勝に進むことができた。敗北を心理的に消化し、その残滓を取り除く方法を身に着けたわけだ。シーズン中は休む間もなく大会が続くから、即座にリセットしないとやっていけない。テニスで成功するためには、そうしたメンタル能力が必要なんだ」



心をリセットする方法については、2013年にスタッフに加えたボリス・ベッカーに学んだという。

ジョコビッチは言う。「ボリスには、ドイツ的な勝者のメンタリティと文化がある。ドイツ人のディシプリン(規律)と合理性、絶対不屈の精神はとても重要なんだ。精神的な落ち着きを得たものが、最後の勝利を得られる。プレッシャーをいかにうまく遠ざけるか、ボリスはそれを良く知っていて、どういうプロセスでその境地に至るかを、彼は示すことができるんだ。彼はトップレベルの選手がどんな問題に直面するかを正確に理解している。ボリスの力を借りることで、リセットの仕方を最適化することができたんだ。いったん弱い気持ちに囚われると、それがどのぐらい続くのかは誰にもわからないからね」

ジョコビッチは、こうも言う。

「スポーツではよく”ゾーンに入る”と言うだろう。普通では考えられない状態で、いったんそこに入ると集中力と自信、柔軟性と対応能力が完璧な状態で調和し、自分の100%の力を出し尽くすことができる。相手に惑わされず、相手を見ることすらなくなる。僕もときどき、このゾーンに入る。でも、いつも中に入れるわけじゃない。入口に至るだけの時もしばしばある」



心ばかりではない。ジョコビッチは身体の管理も当然おこたらない。グルテンフリーのダイエットなどで体質改善を図っている。

「おかげで選手としても日常生活でも気分がずっと良く感じられるようになった。アレルギーと喘息も、食事のおかげで完治した。精神的にも安定して、不安を感じることがなくなった。この生活を2010年から始め、今日までに5kg減量した。そして世界ランキング1位になり、グランドスラム(四大大会)を6回優勝できたんだ」



最後に、王者ジョコビッチは、こう語る。

「僕の人生は決して平凡ではない。母国(セルビア)の戦争のことを考えると、自分がどれほど恵まれたかもよくわかる。テニスをすることで、僕は心の平安を得ることができた。常にNo.1でありたいと思う。自分の名前をテニスの歴史に刻みたいとも思う。でも、それらは絶対的な目標ではない。幸福の源泉でもない。もし明日、テニスを止めるのであれば、僕は別のことで自分を満たせるだろう。だからもはや、それぞれの試合や大会に勝つことには、あまり固執していないんだ」

そして、こう笑った。

「ネットの向こう側を見ていては駄目なんだ(笑)」













(了)






ソース:Number(ナンバー)869号 錦織圭のすべて。全豪OP直前総力特集 (Sports Graphic Number(スポーツ・グラフィック ナンバー))
ノバク・ジョコビッチ「好敵手の存在が僕を進歩させる」



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